エッセイ 「夢の続き」

私が日本料理に携わり30年になりますが、時代の変化により食も多様化し、「安心」「安全」「安定」が問われる時代になり伝統の食文化が崩れかけており、各地域では「食育」「地産地消」の活動が盛んになっております。
幼少時の味覚が大人になり美味しい、まずいの経験に繋がってくると思うのですが、私のお客様は60代の女性が多く、食材、調理にも詳しく、調理法をよく聞かれることがあります。その際、調味料の割合、仕入れ先など細かく説明させていただいています。
さっそく家に帰られるとご主人様、お子様、お孫様に食事を提供してる姿が浮かびます。
私の料理の特徴は、香りと食感を最大限に引き出し食材の持ち味を感じて頂いていることですが、若い世代にはなかなか伝わりにくいですね。調味料で食べるのか、食材で食べるのか、お客様に聞くこともよくありますが、私に出来るのは日本料理の技法で食材の持ち味を最大限に表現する事ぐらいです。
近年、海外からも新しい食材が増えていますが、伝統の技法を守り進化させていくのが現在の日本料理であり、この日本料理が世界文化遺産に指定されグローバル化に拍車がかかると、日本料理の調理人は一般的には料理人とこれまで言われたものが、現在では「料理家」「アーティスト」と呼ばれるようになる、私はそう思っています。 これまで東京、静岡、神戸、姫路など全国をまわり、各地の風土、文化、食材、そして人間性等を勉強させて頂き、四年前に地元の加古川で「料理家迫田」を開店、最初は暖簾も看板も出さずに商売を始めました。 私の座右の銘は「我が身は鏡」、出会う人達が私の姿だと思い日々勉強させて頂いておりますが、これまで沢山の人達にご指導をして頂きました。そして人生のターニングポイントでは数々の仲間、先輩方に助けられ、今の私がいると思います。今後は料理を通じて周りの方々に「愛と感動」を伝えることができるよう、「日進月歩」で頑張ってまいりたいと考えています。 私は経営的な事は何もわかりませんが、少しずつでも勉強を重ねてまいりたいと思っています。平岡町高畑の本店は自ら設計した一軒家の日本料理店、東加古川店は駅から徒歩一分のカウンター席の店舗で経営させて頂いてます。またご迷惑をおかけいたしますが、安全な食材を確保する為に本店は完全予約制にさせて頂き、東加古川店は本店営業が無い時のみ営業です。 また本店には、文化勲章作家 川合玉堂を始め上村松篁など偉大な日本画家の作品をかけていますが、こうした文化の香り高い作品を鑑賞し、五感で感じて頂くことで料理もまた際立つのではないかと考えています。 そして日本料理、日本酒、陶器など日本の文化、伝統が次第に無くなりつつある現在、ここで誰かが次の時代に継いで行く役割が必要ではないでしょうか。私も微力ですが伝統の日本料理を守り、これを次代に伝えて行きたい、まだ夢半ばですが、そう考えています。
加古川商工会議所 会報誌 「商工かこがわ」2016年7月号掲載